カムラ
前回は色の認識にはズレがあるという話をしました。
人の色認識においてまだ技術でカバーできない部分もありますが、使用するツールによっては映像制作時になるべく色のズレが起こらないようにすることができます。
ただ、映画やCMなどの編集やグレーディングに適した編集室にするには視界に入る壁やカーテン、照明の色温度などにも映像の色を評価する上で気をつけなければいけません。それは個人制作に関しても同じですが、さすがにすべてキチンと整えるのにはコストがかかりすぎます。
ツールとしてなるだけコスト高にならないよう、今回はモニターを整備すること、撮影からグレーディングまでで正しい色に近づける方法をまとめます。
モニターキャリブレーションについて確認する
映像における色の管理を行なう際、当然ですが最も重要になるのがモニターの色が正しいかということ。
モニターに映る映像を見て色補正をするわけですし、ものさしとしてのモニターの発色がおかしければ、まちがったものさしを使って制作していることになります。
キチンとしたものさしで判断するためにも、モニターキャリブレーションを行ないます。
このカラーキャリブレーションはハードウェア・キャリブレーションとソフトウェア・キャリブレーションの二種類に分けられます。
・ハードウェア・キャリブレーション
ディスプレイ内部を調整し直接モニターの白色点の色・輝度・ガンマなどの色表示を調整する。
メリット | デメリット |
---|---|
スキルに左右されず精度の高い調整ができる。パソコンから送られる信号自体には処理を加えないため、階調減少などが起きない | 10bit以上の階調を持つハードウェア・キャリブレーションに対応したカラーマネージメントモニターでしかおこなえない。そのためモニター自体のコストが高くなる |
・ソフトウェア・キャリブレーション
センサーとソフトウェアを使用し、モニターの特性を測定してその結果を基にビデオカードの出力を調整することでモニターに表示される色を調整する。
メリット | デメリット |
---|---|
どのモニターでもキャリブレーションができる | パソコンから送られる映像の信号自体に処理を加えて白色点の色・輝度・ガンマの調整を行うため本来の映像より階調が減少するなど劣化することがある |
モニターによりソフトウェア・キャリブレーションしかできない場合があります。
用途や予算、映像の色評価という観点から選んでいきます。
モニター
※今回は業務用のマスターモニターなどは高価過ぎますしポスプロエンジニアに向けて書いているわけではありませんので省きます。
モニターは以下の項目で判断していくと良いです。
・IPSパネル(発色性能が良く、見る角度による輝度や色の変化が少ない)
・広色域をカバー(DCI-P3,Adobe RGBなど何%表現できるか)
・ノングレアタイプ(反射・映り込みを防ぐ)
・コントラスト比(1000:1など高いほど良い。白浮きを抑えられ黒の表現力などに分がある)
カラーマネジメントモニター
EIZO社のColorEdgeシリーズが代表とされます。映像制作で厳密なカラーマネジメントを行なう必要がある場合、なるべく品質と性能の良いEIZO社のモニターを選びたいところです。
www.eizo.co.jp
- 出版社/メーカー: EIZO
- 発売日: 2016/06/03
- メディア: Personal Computers
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特にColorEdgeのCGシリーズはハードウェアキャリブレーション用のセンサーがモニターに内蔵されておりセッティング等することなく簡単にハードウェアキャリブレーションが行えます。
他に代表的なところではNEC製のカラーマネジメントモニターがあります。もちろんハードウェアキャリブレーションに対応しています。内蔵モデルはないので別途オプションでセンサーを購入する必要があります。
jpn.nec.com
カラーマネジメントモニターとしては安いLGの製品もあります。なんと4K対応。
LG ディスプレイ モニター 31インチ/DCI 4K IPS/非光沢/4096×2160/HDMI/DisplayPort 31MU97-B
- 出版社/メーカー: LG Electronics Japan
- 発売日: 2014/11/15
- メディア: Personal Computers
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上に挙げたEIZO社の製品もフラッグシップ機は50万円を超えるように、やはり高品質高機能を求めると高価になってしまうところが欠点でしょうか。
モニター(カラーマネジメントモニターでないもの)
ハードウェアキャリブレーションには対応していませんが、値段も手頃かつIPSパネルでDCI-P3 98%,Adobe RGB 100%カバーなど広色域をカバーした製品です。
Dell ディスプレイ モニター UP2516D 25インチ/WQHD/IPS非光沢/6ms/DPx2(MST),HDMI/AdobeRGB100%/USBハブ/フレームレス/3年間保証
- 出版社/メーカー: Dell Computers
- 発売日: 2015/11/14
- メディア: Personal Computers
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ソフトウェアキャリブレーション
ソフトウェアキャリブレーションには以下のキャリブレーションセンサー(ソフトも付属しています)が入手しやすく一般的です。これらを使って、パソコンから出力される映像にカラープロファイルを適用させ補正します。
・X-rite i1Display Pro
【国内正規代理店品】X-rite エックスライト ディスプレイキャリブレーションツール i1Display Pro アイワン・ディスプレイプロ KHG1035
- 出版社/メーカー: エックスライト
- 発売日: 2011/10/01
- メディア: Camera
- 購入: 4人 クリック: 26回
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・Spyder-5 Elite
Spyder(スパイダー) モニターキャリブレーション Spyder-5 Elite(エリート)
- 出版社/メーカー: DATACOLOR
- メディア: エレクトロニクス
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旧製品のSpyder4のシリーズには後述するDatacolorのカラーチャート「SpyderCHECKR」が同梱されたSpyderHDという映像制作向けの商品があったのですが、生産終了品となっていました。重宝していただけに残念です。
i1Displayに関してもネット上に多くの情報があり、使用者も多く有用な情報も多く見つかります。
※注意
モニターキャリブレーションを行っても、そのモニターの色域は変わらないため完璧に理想とマッチしたものにはなりません。限界があります。そのためにも広色域をカバーしたモニターを使用したいです。
また、安く品質の劣るモニターではソフトウェアキャリブレーションによる調整をしても表現力が弱く、その成果が全く出ない場合があります。
撮影段階〜カラーグレーディングの色管理に使えるツール
さて、モニターキャリブレーションを行なったとしても、撮影した映像をキチンとした色表現でグレーディングできるかは別です。そんな場合に、撮影した映像を簡単にベースとなるカラーへグレーディングできるツールがあります。
DaVinci Resolveのカラーマッチ機能
Blackmagic Design: DaVinci Resolve 12
無料版も含めたDaVinci Resolve (ver.11以降)にはカラーマッチ機能が搭載されています。
これは撮影したカラーチャートをソフトウェア上で認識させ、そのカラーチャートに対応した色の値と適合させることで、簡易的に最初のベースとなる色に調整を行なうことができます。またカメラはもちろん、ビデオでもRAWでもフィルムでも異なる色温度や照明であってもカラーチャートをベースとした自動調整してくれるというものです。
現行のDaVinci Resolve12.5において、カラーマッチ機能に対応しているカラーチャートは以下のものでした。
・Datacolor SpyderCheckr 24
・DSC Labs ChromaDuMonde 24+4
・DSC Labs SMPTE OneShot
・X-Rite ColorChecker Classic
・X-Rite ColorChecker Video
・X-Rite ColorChecker Passport Video
特にSpyderCheckrやX-RiteのColorCheckerに関しては値段も手頃で入手しやすく、撮影時の携帯にも便利なタイプとなっていますのでおすすめです。
Spyder CHECKR 24(スパイダーチェッカー24) デジタルカメラ用カラーターゲット
- 出版社/メーカー: datacolor
- メディア: エレクトロニクス
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【国内正規代理店品】X-rite エックスライト? カラーチェッカー ColorChecker Passport Video カラーチェッカー パスポート ビデオ KHG3421-PPV
- 出版社/メーカー: エックスライト
- 発売日: 2016/01/22
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※注意
ただし、カラーチャートも日焼けや皮脂など原因の褪色などで経年劣化します(つまり消耗品)。そうなってしまうと満足行く結果が得られませんので買い替えなどをしなければいけませんし、管理にはちょっとした注意が必要です。
また、カラーマッチ機能に関しても、ピクチャープロファイルが適用されているビデオデータでは、撮影時にプロファイルによる色補正をしているにも関わらず再度その色調を元に戻す補正をかけることになるので要注意かと思います。
BlackMagicDesign社のシネマカメラユーザーがメインターゲットだと考えると、映像収録にProResファイルやRAWを使用するユーザーが多いと想定しているためかと思われます。
まとめ
16mmフィルムで制作していた時は、フォーマットが定まっていたためスクリーンで見た色をベースにタイミング作業などで色調整するだけでした。また、きちんとカラーチャートを一緒に撮影するよう心がけており、現像の目安になるためカラーチャートの撮影は欠かせないものでした。現像所の職人さんが補正の目安にするためです。
出力先のモニター、スクリーンでの色の反映のされ方など、デジタルシネマ用途の映像フォーマットが増えた今、正しい色の認識のもと、それに対応した環境で安心して制作するためにはフィルム撮影時の心がけが再度必要になってきている気がします。
カムラ
アールテクニカで映像技術担当。大阪の芸術大学で映像を学んだ後、社長に拾っていただきジョイン。社内では映像系のサービスやアプリ企画を作っています。