アールテクニカ地下ガレージ

アールテクニカ株式会社の製品開発・研究開発・日々の活動です

映像制作と色認識のズレ

Author

カムラ


BlackMagic Design社のDaVinci Resolveの普及により、カラーグレーディングに興味を持ち実際に使っている方も増えてきているのではないでしょうか。
Blackmagic Design: DaVinci Resolve 12

実写の映像制作をするにあたり、自分が本当に見ている色が正しいのかどうかということは重要です。
今回は見直しておきたい、基本的な色認識のズレについてまとめてみました。

色認識のズレ

さてカメラに偽色があるように、人間の「色」に対する認識にも様々な要因によりズレがあります。
視覚だけではなく、例えば言葉で他人に伝える際にもその語感によりイメージする色の違いが挙げられます。

「熟れたりんごと青いりんご」

この場合、熟れたりんごの「熟れた」は「赤い」りんごのことを指し、「青いりんご」も青いとは言っても厳密に言えば緑色です。
青に関して言えば、日本語や漢字、中国語の「青」は緑の意味も持つことから青いと表現しますが、その青の解釈も様々と言えます。
他にもJIS規格の慣用色として定められた青(#0067C0)とウェブカラー、RGBのブルー(#0000FF)では、ブルーのほうが青色よりもやや紫よりで濃い青で群青色に近いと感じます。
こういった語感や言葉で伝わる色のイメージと実際の色とには、その色をイメージする人によって開きがあるため複数人で作業をする際などに気をつけたいです。

では、視覚的な色認識のズレについてはどのような要因があるか基本的なものを挙げてみました。

視覚環境によるもの

・光源の種類(色温度)
・光源の方向(光源の位置)
・背景(対比効果)
・大きさ(面積効果)

これらの条件が異なるだけで、色の見え方が変わってしまいます。
例えば家のPCモニターで確認しながら編集した映像を劇場でスクリーン試写すると、色の雰囲気や映像の見え方が違って見えることがしばしばあります。
これは当然ですが、モニターとスクリーンでは光源の種類と位置、スクリーン周りの背景や明るさ、その面積などが全く異なるためです。

光源の種類や方向によるものとして、緯度そして関係する照度の違いによる色の見え方の違いも挙げられます。
最も太陽に近い赤道付近から北極や南極に近づくほど太陽光との間の大気層の距離が長くなります。このため、極に近い地域では波長の短い青い光が散乱され、自然光は青みが強調されます。逆に、赤道に近づくほど光の散乱が少なく、極に近い地域と比べて赤みが強調されるのです。それにより地域による色の見え方や好まれる色も変わります。

鑑賞者によるもの

・個人差
・人種(虹彩の色の違いにより見えている色が違うという研究もあります)
・加齢

また、人間の特性として、色彩に目を奪われ、明度についての注意がおろそかになりがちです。業務用テレビカメラのビューファインダーが白黒なのは、明度とコントラストが適切な状態になっているかを確認しやすいためです。

鑑賞者に起因するものとしては、記憶色と期待色も例に挙げられます。

人間はものを見る時に、「バナナは黄色」、「葉は緑」というように、漠然とした色のイメージをもって目の前にあるものを見ています。しかし、撮影した映像をみてみると想像していたような真っ黄色なバナナはありませんし、塗りつけたような緑色の葉は存在しません。実際に存在する「色」は、人間が考えているほど鮮やかではないのです。
しかし、絵の具を渡されて葉を描くと、多くの人は緑色に塗るかと思います。それが「記憶色」です。デジタルカメラで風景を撮影して、「自分が記憶していたような色に撮れていなかった」と思うことがあれば、それは記憶色によるものなのです。
また、人は映像や写真を見る時に、物体に対し「これはこういう色だ」と無意識に考えています。それが「期待色」です。

引用元:http://shop.epson.jp/projector/other/useful/05/

一般に、記憶色は実際の色よりも明度も彩度も高く記憶されているといい、忠実な本来の色よりも少し彩度を上げた映像が好まれる傾向にあります。個人の記憶色や期待色を再現するために、フィルムでは同一メーカーから発色の異なる数種類のフィルムが販売されています。これはピクチャープロファイル(各社で呼称が異なります)という形でデジタルにも引き継がれています。

また、人は記憶してる色と違う場合、違和感を覚えます。違和感を感じないように、記憶色や期待色に近づけていけば映像の色合いも理想的な色合いに近づきそうですが、この記憶色も人によって当然誤差があります。自分の感覚だけを頼りにカラーグレーディングを行っていると、人の肌の色がシーンによって異なってしまうなど破綻することもあり得ます。それが狙いではない限りきちんとした指針を作る事が必要です。


蛇足ですが、色覚特性(色弱や色盲などとも呼ばれます)もその1つと言えます。
映像のグレーディングにおいて、様々な色覚特性を持つ、人の色の見え方に対応できる方法は存在しません。

この分野に関して何か有用なツールがないものかと探してみましたが、映像制作系のツールとしては見つかりませんでしたが、一般型(C型色覚)の色覚を持つ方が簡易的に色覚特性を持つ人の色の見え方を体験できるツールというものが存在しました。

色のシミュレータ

色のシミュレータ

  • Kazunori Asada
  • 教育
  • 無料

market.android.com
スマートフォンのカメラと連携した「色のシミュレータ」アプリを使うことで、簡易的に色覚特性を持つ人の色の見え方を体験することができます。

試しに色覚特性を持っていたとされるゴッホが描いた自画像をこのアプリで確認すると、以下のようになりました。

右上P(1型2色覚)や左下D(2型2色覚)の見え方の方が、より人間らしい肌の色で表現されました。もしかしたらゴッホがイメージしていた色はこの色だったのかもしれない、と思うと、これはこれで興味深いですね。


さて多少脱線しましたが、これらのように色の認識にズレが生じてしまうことが分かっている以上、映像制作、カラーグレーディングを行なう上ではなるべくそのズレをなくしたいと考えます。

次回は、映像制作の際にツールによる色のズレを無くす方法を考えてみます。


Author

カムラ

アールテクニカで映像技術担当。大阪の芸術大学で映像を学んだ後、社長に拾っていただきジョイン。社内では映像系のサービスやアプリ企画を作っています。

スポンサーリンク