アールテクニカ地下ガレージ

アールテクニカ株式会社の製品開発・研究開発・日々の活動です

コンパスとCDケースで作るホログラム


「とうとうやりましたね博士」
ついに我々はホログラムに成功した。
まずは動画を見てほしい。
vimeo.com


種明かしをすると、これは1995年にWilliam J. Beatyが発見した「Abrasion Holography」という手法だ。
やり方はいたって簡単。

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Holography without Lasers: Hand-drawn Holograms [SCIENCE HOBBYIST]

図のように透明または黒色のプラスチック板に、描きたい図形(図ではVの文字)に沿って、コンパスで同じ間隔の円弧の引っ掻き傷をつける。
これを太陽光などの下にかざすと、光る図形が浮かんで見える。たったこれだけだ。

ほんとにそれだけで出来るの?と思われるかもしれないが、この現象は普段の生活でもよく見ることができる。
例えばキッチンのフライパンや鍋などの底を確認してみよう。
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写真のように円状の模様と円を中心にしたハイライトを見ることができる。
これは製造過程で回転しながら研磨した時にできる同心円状の微細な傷だ。この傷ひとつひとつのハイライトが連なって、このような模様となって見える。
普段は蛍光灯などの"広い"照明のためボヤっとしか見えないが、点光源をかざすとこのように極小のハイライトとなり、線となって浮びあがる。これがこのホログラムの原理だ。
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引っ掻き傷の鏡面反射で起こることから、「Specular Holography」や「Scratch Holography」とも呼ばれる。原理自体は古くからあり、1934年にドイツの芸術家Hans Weilが発明し特許取得したのが最初のようだ。(Specular holography - Wikipedia)
一般にホログラムというとレーザーを使ったものを思い浮かべるが、レーザーが発明されたのは1960年なので、それよりずっと古いことになる。
これを先のWilliam J. Beatyがコンパスを使った方法を発表し、誰でも簡単にホログラムを作れるようになったというわけだ。

とまあ難しい話はこの辺にしておいて、実際に作ってみよう。

用意するのはコンパスと透明なCDケース。
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コンパスはぐらつきのないしっかりした物がよい。穂先が金属針に交換できるものならなお良し。傷を付けられればいいので、ディバイダーとかケガキでもいい。
CDケースはホームセンターで購入したものだ。
他の作成事例だと黒いアクリル板を使っているケースが多い。黒なのはコントラストが出てよく見えるからだが、透明でも割とよく見えるのでどちらを使ってもよいだろう。
それと、ガイドを書くためのペンと台紙またはガムテープも用意しておこう。

では初歩的なVの字から初めてみよう。

まずCDケースにガイドとなるVの字を2cm四方で書く。
次に、Vの先端にコンパスを当てて、そこを中心に軽く回して傷をつける。
そこからVの字に沿って数mmずつ動かしながら同じように傷をつけていき、Vのもう一方の先端まで繰り返していく。
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傷をつけるときのコツは、軽ーく撫でるようにコンパスを回すこと。
これだけでしっかり傷がつく。
念入りに傷つけようと往復させたり強く押しつけて回すと、傷の断面が平坦になったり深さが均一でなくなり、ホログラムが表示されなくなってしまう。
ちなみに失敗例はこちら。左が成功例で右が失敗例。傷全体が白く浮び上がってしまっている。
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出来上がったら、日光の下で太陽光の当たる角度を調整してみよう。
天気がいい日なら星座のように点が連なったVの字が浮かび上がるはずだ。透明で見えにくい場合は、後ろに黒い紙を置いたり、裏側を黒く塗るとよく見える。
天気が悪い日や屋内の場合は周りを暗くして、太陽の代わりとなる点光源、例えばスマホのフラッシュライトで照らしてみるとよい。
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今は点がまばらだが、点の間隔を狭めていくと実線となり、より図形らしくなっていき、冒頭の動画のような綺麗なホログラムを見ることができる。
ここまで成功したら、次は図形を大きくしたり複雑な形にしてみよう。

他にも、円弧ではなく円にして四角形をなぞるように移動することで、このように立方体を表示することができる。
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vimeo.com


このように普通に買える道具と材料、それと忍耐力があれば誰でも作ることができる。
それに写真や動画で見るより、実際に作って手にとって見たほうがずっと立体感を感じることができる。これぞ工作の醍醐味だ。


Author

とべっち (Tobetchi)

ART Teknika佐賀スタジオマネージャ、プログラマ。WebプログラマからiOSプログラマへ転身。VJとしても活動中。

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