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アールテクニカ地下ガレージ

アールテクニカ株式会社の製品開発・研究開発・日々の活動です

映画のバリアフリー視聴化の現在と周辺技術

Author

カムラ

映画のバリアフリー視聴とは

映画のバリアフリー視聴とは、主に視覚障害者や聴覚障害者の方々、高齢化により「見えにくい」「聞こえにくくなった」という方々に向けた映像のバリアフリー化が施されたコンテンツを視聴することを指します。
また障害・健常にかかわらず誰もが共に映画を楽しめる映画上映として「ユニバーサル上映」というものもあります。

これら映画のバリアフリー視聴化への背景として、平成28年4月1日から施行された「障害者差別解消法」の存在が挙げられます。
映画の視聴環境についても障害者差別解消法にかかる措置の対象とされ、映画・映像コンテンツのバリアフリー化というのは喫緊の課題とされていますが、映画のみならず、教育機関、行政等が発行する映像にも聴覚障害者用字幕の付与は進んでいないのが実状です。

特定非営利活動法人メディア・アクセス・サポートセンターの資料*1によると2014年に公開された映画は615本(日本映画製作者連盟発表)。そのうち、聴覚障害者に配慮した日本語字幕付き作品は66本(11%)、視覚障害者に配慮した音声ガイド付き作品は6本(1%)という現状です。
さらに今後は障害のある無しに関わらず、国内人口の高齢化に伴い、ますますバリアフリー視聴へのニーズは高まっていくと予想されています。

バリアフリー上映のための技術にはどんなものがあるのか

さて、バリアフリー視聴を可能とするためには、視覚情報を補う「音声ガイド」や聴覚情報を補う「字幕(バリアフリー字幕)」を付加させることが必要です。
この場合の字幕とは、聴覚に障害のある人に配慮した字幕で、セリフだけではなく話者(話し手)の名前、生活音や効果音、音響・BGMなどを文字化したものを指し、バリアフリー字幕ともいいます。
音声ガイドは情景、場面、人物の動きなど、視覚的情報を言葉で説明するナレーションのことで、音声解説、副音声とも呼ばれており、バリアフリー映画はその日本語字幕と音声ガイドが付与された映画のことを指します。

では、バリアフリー視聴のためのソフトウェアや技術にはどのようなものがあるか調べてみました。

音声認識アプリ「UDトーク」

udtalk.jp
youtu.be
UDトーク - コミュニケーション支援・会話の見える化アプリを App Store で
UDトーク - コミュニケーション支援アプリ - Google Play の Android アプリ

字幕を付与する前段、字幕のライティングに適したアプリになっており、無料版と法人版が提供されています。
※無料版では機能制限があり、アドオンを購入することで法人版と変わらない使い方もできます。

機能としては、音声認識技術を使って、声を文字化、また翻訳エンジンを使って双方向に言語翻訳するというもの。
音声を認識し文字に変換してくれるので、その後txtファイル化させ「おこ助」や「Babel」などの字幕付与ソフトと連携させることでスムーズな字幕作成が可能となります。
日本語音声認識には「AmiVoice」、多言語音声認識に「Nuance」が使用されています。

機能としては他に、
・QRコードを読み取ってアプリ同士を接続して会話のやり取りを行うことが可能
・キーボードでの入力(本体、Bluetooth)も可能
・手書きのイラストを送信することができる
・サブディスプレイに字幕を表示
・本体の音声合成機能を使って本文や翻訳結果を読み上げ
・UDフォント(みんなの文字)を採用

法人向け特典
・AmiVoiceCloudを使用した音声認識サーバーの利用
・登録音声認識サーバーへの一括単語追加機能
などがあります。

バリアフリー字幕制作ソフト「おこ助 Pro3」

okosuke.jp
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映像中の音声に合わせた字幕配置作業に適したツールです。
「おこ助」は一般的な字幕用ソフトウェアだと10~20万円ほど(映像字幕ソフトウェア「Babel」永久ライセンスで15万円)かかりますが、誰もが気軽に字幕を作成できるソフトウェアとして通常版が49,032 円、アカデミック版は 29,376円と比較的購入しやすい価格で販売されています。

特長として、

・バリアフリー字幕の他、英語・中国語など多言語字幕にも対応可能(ユニコード対応)
・字幕の挿入、削除・コピー・移動(各複数一括可)、分割、結合機能等フル機能が使用可能
・文字色やルビ、斜体設定、縦書き、揃えの変更など、日本語独特の字幕装飾全てに対応可能
・映像ファイル再生時には音声波形が付くことで作業効率の向上が期待できる
・前述の音声認識アプリ「UDトーク」と連携。リスピークによる書き起こし作業を手助けする

という特徴があります。
さらに機能限定版の「おこ助 Community」は無償で配布されており、字幕制作の敷居を下げ一般化を広めています。

※この「おこ助 Community」に関しては次回記事で実際に使ってみた導入記事を書いています。

ただ、バリアフリー上映に関して調べていく中で見つけたツールなのですが、「おこ助」に関しては、2016年10月31日でサポートが終了し、今後のアップデートも行われないとの発表が既に出されています…。

サポート終了後、同じように入手しやすい字幕制作用ソフトウェアとしては、「Babel」が挙げられます。
www.babel.style
価格は永久ライセンスでインストール制限のないパッケージモデルが15万円、1年間のライセンス版は3万円。
Final Cut Pro 7(Xは非対応)、Premiereなどへのxml,aafエクスポート機能はそれぞれ別途購入が必要となっています。

「UD Cast」

udcast.net
youtu.be
UDCastを App Store で
UDCast - Google Play の Android アプリ

さまざまな障がい者が健常者と差別なく一緒に映画を鑑賞できる新技術「UDCast」(ユーディーキャスト)。
すでに劇場版「ワンピース」で導入がなされていたり、来年度から全国の映画館での「UDCast」導入を前に各地で上映イベントが行われています。
UDCastによるバリアフリー映画上映会 | | メディア・アクセス・サポートセンター
NEWS | ONE PIECE FILM GOLD(ワンピースフィルムゴールド)

バリアフリー視聴まわりの技術では、いま一番注目を集めているといっても過言ではないでしょう。
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このUDCastは以下のふたつの方式があり、用途に応じて共通の端末を用いて使い分けることが可能です。

1:時間同期バージョン
  予め本編音声に「電子透かし」を挿入、又はフィンガープリントで対応する。
2:ライブバージョン(歌舞伎・狂言/能・演劇・音楽・博物館/水族館等のショー 他)台本を予め読み込んで、現場でリアルタイムにデータを送出する。
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音声同期に関しては、人間の耳には聞こえない「音声透かし」と呼ばれる音を4秒ごとに映画の音声に付け、その「音声透かし」の音を専用アプリ「UDCast」で拾うことで、各ユーザーが「日本語字幕」「外国語字幕」「音声ガイド」「手話」など、各々が欲しい情報をスマートフォンに表示させます。映像の音声を利用するため、Wi-Fiなどの無線技術を使うことなく利用できることができるというものになっています。

また、スマートフォンだけで使えるものにはなっていますが、字幕が映し出されるメガネ型ウェアラブル機器(エプソン社のMOVERIOなど)を装着してもらうことで、聴覚障害の方が劇場での上映中にスマートフォンの画面を確認しなければならないという欠点を補うこともできます。
MOVERIO 「視聴」から「体験」へ。映像の楽しみ方がひろがる。 | 製品情報 | エプソン

技術以外:日本初のユニバーサルシアター『CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)』

東京・北区に日本初 音声ガイド・字幕などを常時用意した ユニバーサルシアターがオープン! | eizine [α版]
やや脱線しますが、常時ユニバーサル上映を行なう専門館として、日本初のユニバーサルシアター「CINEMA Chupki TABATA」が2016年9月にオープンしています。
補助用音声ガイド、日本語字幕表示、車椅子スペースの設置などの他、子供連れの鑑賞用に親子鑑賞室の設置がなされていたり、手話活弁付き上映が企画されています。

まとめ

英国や米国などに比較すると遅れているという現実はありますが、映画のデジタル化により、字幕や音声ガイドといった従来のフィルム上映では技術的に付加しにくかったもの、コストが掛かりすぎていたものの導入への敷居が低くなり、映像コンテンツが真に誰もが楽しめるものへと進化してきています。
コストや助成金、ビジネスとして開発が維持できるかなどの問題はまだありますが、今後もバリアフリー視聴周りの技術やニュースに注目していきたいと思います。

次回は「おこ助Community」を使って実際に映像に字幕を付与して再生までしてみます。

参考資料等

映像のバリアフリー化とは? | メディア・アクセス・サポートセンター
・平成27年度コンテンツ産業強化対策支援事業 映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境の在り方に関する調査事業報告書:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000144.pdf
特定非営利活動法人シネマ・アクセス・パートナーズ NPO CAP(キャップ)
・平成26年度コンテンツ産業強化対策支援事業 映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境の在り方に関する調査事業報告書:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000192.pdf


Author

カムラ

アールテクニカで映像技術担当。大阪の芸術大学で映像を学んだ後、社長に拾っていただきジョイン。社内では映像系のサービスやアプリ企画を作っています。

*1:※特定非営利活動法人メディア・アクセス・サポートセンター 調査事業報告書 http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000192.pdf http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000192.pdf

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