アールテクニカ地下ガレージ

アールテクニカ株式会社の製品開発・研究開発・日々の活動です

最近のスポーツ中継における映像技術について

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カムラ

先日のリオオリンピック閉会式における2020年東京オリンピック開催地紹介映像が話題になったように、スポーツの国際大会は映像技術の発表の場という側面を持っています。オリンピックをはじめ、サッカーW杯やアメリカNFLスーパーボウルなど世界中でテレビ中継され注目が集まる場だけに、こぞって最新の撮影技術や中継技術が投入されます。
今回はこれら最近のスポーツ中継に使われる映像技術に関して調べてみました。

特殊視点映像

FreeD™

vimeo.com
今年の3月にIntelに買収されたイスラエルのReplay Technologies社による3D合成によるリプレイ映像技術で、アリーナを取り囲むように設置された28台の超高精細度カメラによる映像をIntelサーバで瞬時に3D合成処理、インスタントリプレイとして放送するというもの。カメラはリモートで同期制御され、集約されたソースはほぼリアルタイムでボクセル処理されレンダリングし、その3D素材から60秒程度のリプレイを生成しています。
映画「マトリックス」でのバレッドタイム撮影のような映像を生放送および会場のモニターで観ることができます。

ぐるっとビジョン

youtu.be
こちらもおなじくバレットタイム的な撮影技術。NHK放送技術研究所によるもので、2013年のNHK技研公開で話題になりました。

“従来の方法では、固定のカメラを用いていた為、限られた空間もしくは狭い空間を動く被写体しか撮影できませんでした。しかし、今回の多視点ロボットカメラシステムによって、ダイナミックに動く選手や広い空間でいろんな箇所にいる被写体を撮影することができ、それをぐるっとビジョンで表現できるようになりました。”

出典:http://www.nhk.or.jp/pr/marukaji/m-giju348.html

とあるように、9台のカメラを同期制御し、メインカメラの向きや画角を追随し射影変換処理を行っており光学的な歪みの補正を行なうシステムで従来の多視点撮影を進化させています。当初は体操のゆか競技での選手の動きのチェックなどで主に力を発揮していたようですが、最新のぐるっとビジョンでは被写体追跡技術を加え、その解析データを元に3DCG合成を加えることで、通常の映像では目で追いにくい選手の動きにCGアニメーションでのガイドをつけて出力したりすることもできるようで、スポーツだけでなく通常人間の目で追いにくい動きをする生き物の生態などを多視点かつわかりやすく伝えることもできそうです。

Brazucam

www.youtube.com
こちらはサッカーボールに6つのGoProが内蔵されており、ボール視点での360度映像を撮影できるというもの。W杯の公式球を供給するアディダスにより2014年ブラジルワールドカップのプロモーション用に作成されました。しかしその映像はボールの視点でピッチを駆け回れるというよりも、転がりまわる映像で酔ってしまいそうになっているのは残念です。

そこで、個人的に今後この技術と合わさって改良されると面白いのではないか?と考えているのが、東京工業大学で研究されている、「カメラ内蔵ボールによるボール視点映像の生成」技術。
カメラ内蔵ボールによるボール視点映像の生成

一般にボールは回転しながら移動するため、本来被写体として写しておきたい競技者やグラウンドだけでなく、空などの、本来不必要なものが写ったり、撮影された各フレームはボールの回転によるモーションブラーやローリングシャッターで歪んでしまいます。
この研究では、映像の各フレーム画像の全画素から輝度値の平均を割り出し、回転のため周期的に変化する輝度値からグラウンド面を向いたフレームを抽出し、かつ画像の歪み補正を加えて映像を観やすくした技術を提案しています。
今後実用化されると、サッカーやラグビーなどの競技をピッチの中で観るような臨場感あふれる映像を楽しむことができるかもしれません。

映像表示技術

シート型ディスプレイ

https://www.nhk.or.jp/strl/open2016/tenji/e2.html
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出典:8月の試験放送に向け、8K SHVが進化。シート型有機EL 8Kディスプレイ/8K HDR - AV Watch

こちらはNHK放送技術研究所で開発中の厚さ約1mmのシート型8Kディスプレイで、今年の技研公開2016で最も注目を集めていました。有機ELを用いているためバックライトが不要で薄型化が可能になっています。
公開されていた試作機は、シートディスプレイと言ってもガラスパネルを使用しているため、折りたたんだり曲げたりすることは出来ないものでした。
しかし、ガラスパネルを使用せずにフィルムを使用することで曲げられるディスプレイの実験開発も技研公開2016で展示されており、今後の開発に期待が寄せられています。

展開としては、シート型のディスプレイなのでビルの壁面に設置することで大規模なパブリックビューイングも行なう事ができますし、トレーラーに設置することで巡回可能な大型ビジョンとして活用されることも予想できます。

放送技術

HybridCast(ハイブリットキャスト)

www.nhk.or.jp
ハイブリットキャストとは、NHKが開始した放送とインターネット配信を融合させたテレビサービスのことです。
従来のデータ放送はBMLと呼ばれるXMLベースのデータ放送用記述言語で放送波と一緒に伝送していたのに対し、HybridcastではHTML5が使われており、放送と通信の両面からより良質なコンテンツを配信することができます。
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出典:ライブスポーツ番組におけるハイブリッドキャストの活用 | NHK技研公開2016

例えば、トラッキングシステムを使用したサッカーの試合データを試合中継の放送と連動させてリアルタイムで配信することができます。
ラッキングシステムとは、スタジアムに設置された専用のカメラとソフトウェアの画像認識によって選手の動きを補足し、その走行距離やスピード、ポジショニングを計測する、といったもので2010年シーズンよりJリーグにも導入されています。

ハイブリットキャストを利用することで、テレビでサッカーの試合を視聴しながら、連動した手元のiPadでは選手個人のデータやフィールド上の選手の動きを俯瞰で見た映像を視聴することができ、通常のサッカー中継ではなかなか見ることができないGKの位置などのオフザボールの動きも確認することができたりと、スポーツ中継の楽しみ方がより多角的になります。
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出典:鳥栖 vs 新潟 | LIVEトラッキング

まとめ

個人的に特にスポーツ中継に関わる映像技術は、いかにより臨場感を出すか、映像への没入感を高めるかといったこと、そして、より色んな角度で見たことのない映像体験をさせられるかが鍵になっていると感じます。

また、総務省が2015年に発表した2020年東京オリンピックパラリンピックへ向けた映像技術の展開イメージ資料によると、大型シートディスプレイや立体映像、人や車など移動する物体に動画を表示できるプロジェクションマッピングといった映像技術を世界に展開していこうという狙いが示されています。
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/olyparatf/3kai/3_olympicparalympictaskforce_shiryou_2-8.pdf
こういった、オリンピックに向けた映画やテレビ中継の映像技術が今日の映像技術の発展につながっていることは言うまでもなく、更に通信や画像認識といった今後更にクロスしていくことが予想される技術についても目が離せません。

リオ五輪の開閉式を支えたパナソニック こだわったのは「影を消すこと」 - ライブドアニュース

今回は紹介しませんでしたが、大会スポンサーでもあるPanasonicのプロジェクターをはじめとした映像技術製品がリオオリンピックでも活躍しており、あの開閉会式のプロジェクションマッピングが出来上がったと考えると、指針にある2020年に向けた映像技術がどれくらいの高い精度で出来上がるのかが楽しみです。


Author

カムラ

アールテクニカで映像技術担当。大阪の芸術大学で映像を学んだ後、社長に拾っていただきジョイン。社内では映像系のサービスやアプリ企画を作っています。

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